国立大学法人筑波技術大学 筑波技術大学は視覚障害者?聴覚障害者のための大学です。

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  • 2025年6月19日
  • メディア情報

茨城論壇連載(第2回)博狗体育网址

2025年6月14日 土曜日、茨城新聞「茨城論壇」にて博狗体育网址の連載2回目の記事が掲載されました。
連載は全12回、次回の掲載日は8月16日 土曜日の予定です。

掲載された記事を以下に転載しています。ぜひご覧ください。

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「茨城論壇」筑波技術大学長 石原 保志

 近年、ダイバーシティ(多様性)?エクィティ(公平性)&インクルージョン(包摂性)という言葉を頻繁に目にするようになりました(DE&I)。多様性とは、性差?年齢、国籍、文化、宗教、障害の有無、価値観などの違いを指します。公平性は、上記の多様な人々が公平に活躍するために必要な環境を整備すること。包摂性は一人一人が社会の中で尊重され積極的に社会活動に参加できる状態を指します。

 わが国でDE&Iという用語は、女性活躍の文脈で使用されることが多いようです。企業や公的機関等の組織活動を評価する際に、女性管理職の割合が問われる。これは女性が組織体の中で活躍する環境がまだまだ不十分であるという国民意識、あるいはマスメディアが取り上げやすいテーマであるという背景があるのでしょう。

 一方で、障害者のための大学である筑波技術大学では、第一に障害者活躍という視点でDE&Iを捉えています。マイノリティーである障害者が、社会で活躍するための能力を身に着け、併せて自らが活躍するための環境整備を提案していく。この提案とは、単なる権利主張ではなく、彼ら、彼女らが所属、または関わる組織の活動において、"自分自身が"貢献するために必要な具体的な手立てを自分自身も関わりながら整備するということです。

 その際に障害者及び周囲の人々は、「障害」を客観視する必要があります。多くの人々は、耳が聞こえない人、目が見えない人、歩くことができない人、知的に遅れがある人といった、いわゆる障害者と言われる人々の個人属性で障害を捉えるでしょう(障害の医学モデル)。一方、聞こえないから音声対話が難しい、見えないから文字を読むことができない、歩くことができないから階段移動ができない。こういったことは社会環境の中で生じるバリアーです(障害の社会モデル)。

 障害は個人の中にあるのではなく、社会の中に存在する。この視点を障害者自身と周囲の人々が理解し共有することが、障害者の社会包摂の要請となります。

 それらは物的な整備で改善、解決されることもありますが、重要なのは本人並びに周囲の人々の意識です。そして最も困難なのはその意識啓発なのです。

 例えば職場では皆、忙しい。その中で、部下である聞こえない社員が筆談を求めてきたり、移動困難な車いすの社員が同僚に介添えを求めてくる。「今は手が離せないから後で...」といったことが頻繁に起きます。そのような状況が続くと、障害のある社員は、仲のいい特定の同僚だけに頻繁に支援を求めるということが起きます。特定の人に負荷がかかる状況です。これはインクルーシブな環境とは言えません。限られた人が善意であるいは慈悲で対応するのではなく、組織として「誰もが」当然のこととして障害(バリアー)の軽減、除去に参画すべきなのです。

 ところが障害者とみなされる(あるいは自覚する)人々の中にも、自分に障害があるのだから、仕方ない、周りの人々には迷惑をかけたくないといった心情を持つ人々もいます。あるいはそのような心情に陥らざるを得ない状況が続くと、自らが職務を遂行する上で生じる障害を軽減、除去しようという意識が失せ、周囲の人々に働きかけることをしなくなってしまう。すると周囲の人々は困っている人がいることを知らず、ましてバリアーがあることを認識する機会もなくなります。では、この続きは次回に。

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(広報室/2025年5月19日)